2023-09-14から1日間の記事一覧
翌日も僕は大学を休んだ。 僕のことをからかったり、叔母さんの父さんへの恋心を語ったりしている明日香は、もうあまり思いつめていないように見えた。 でも、僕がトイレに行ったり食事の支度をしたりして、リビングのソファに寝ている明日香のところに戻る…
「明日香、明日退院だって」 連れ立って病院から出たところで、叔母さんが言った。 「そんなに早く退院できるの」 「治療は終わってるからね。退院後は自宅療養になるみたい」 「そうなんだ」 「結城さんと姉さんから頼まれたんで、明日はあたしが明日香を迎…
やがて少し落ち着いた僕たちは、いつものように駅に向かって歩き出した。 僕は、今日は大学には行かないつもりだったのだけど、なんとなく奈緒と一緒に駅から電車に乗り込んだ。 時間的にはもう奈緒は遅刻だったけど、彼女は僕の腕につかまって、僕の方を見…
今日は僕にとってはとても長い一日になってしまった。 さっき渋沢と志村さんに、明日香と手をつないでいるところ不思議そうに見られて、戸惑いを感じたことが、随分昔のことのように思えてくる。 明日香は、叔母さんと別れて集談社のビルから出た途端、どう…
冬休が終った最初の登校日の朝、僕はいつもよりだいぶ早い時間に起きて、普段より一時間以上早い電車に乗った。 自分も近所の公立高校に登校しなければならない明日香は、僕を大学の途中まで送っていくと言い張った。それから登校しても自分の授業に間に合う…
「お兄ちゃん、おせち買えた?」 夜になってどこからか帰宅した明日香は、僕に会うとまずそれを聞いてきた。 「買えてない」 「え~、ちゃんとメモ書いたのに。お兄ちゃんは信用できないから、明日香にも一緒に行ってもらったのに」 「・・・・・・予約もなしにこ…
翌日、僕は妹に起こされた。時計を見るともう十時近い。 「お兄ちゃん起きてよ。買物に一緒に行ってくれるって約束したじゃん」 僕は眠気を振り払ってベッドに起き上がった。 え? 「あのさ」 「どしたの?」 「どしたのって・・・・・・」 「ああ」 明日香は同じ…
その晩僕が帰宅すると、珍しく玲子叔母さんがリビングのソファに座って、妹とお喋りしていた。 「叔母さん、お久しぶりです」 どうしてこの時間に叔母さんがいるのかわからなかったけど、僕はとりえず叔母さんにあいさつした。叔母さんは今の母さんの妹だ。 …
それから二週間くらい経った土曜日の午後、僕は奈緒のピアノ教室の前で彼女を待っていた。 それはクリスマス明けの二十六日のことだった。クリスマスには陰鬱な曇り空だった天気は、今になってちらほらと降る雪に変わっていた。 臆病な僕は、付き合いだした…
「おはようございます。奈緒人さん」 奈緒はいつもの場所で僕を待っていてくれた。今日は彼女より早く来たつもりだったのだけど、結局奈緒に先を越されてしまった。 「おはよう、奈緒ちゃん。待たせてごめん」 「いえ。わたしが早く来すぎちゃったから。まだ…
それから、僕とナオは並んで駅の方に向かって歩き出した。歩き出してからもナオは僕の手を離そうとしなかった。 妹が昨日酔ってたせいで僕は辛い思いをしたのだけれど、結果的に考えると、そのおかげで大切な告白の時間を妹に邪魔されずに済んだのだ。あの酔…
その時、僕は誰かに腕を強く掴まれ、後ろに引き戻された。 「こんなところで何してるの?」 僕の腕にいきなり抱きつき、甘ったるい声で上目遣いに話しかけてきたのは、私服姿の妹だった。 その派手でケバい姿は、ナオと同じ高校二年生だとは思えない。突然僕…
僕はその日の朝、普段より早く起き過ぎってしまったのだった。 母さんを起こしたくない。ベッドを出た僕は反射的にそう思って、音を立てないよう爪先立って、僕と妹の部屋が並んでいる二階の廊下を通って階下に降りようとした。 この時の僕は熱いコーヒーを…